データセット活用事例 Vol.1
PoLyInfoと社内データを組み合わせた
クラレならではの材料開発設計の実現を目指して
- 数万件の材料を、AIモデリング2週間・予測5分でスクリーニング -
株式会社クラレでは、デジタル技術を活用した研究開発の変革を進めています。
光硬化性樹脂の開発では、PoLyInfoの物性データと社内に蓄積された開発データを組み合わせ、独自のAIモデルを構築。モノマーの構造式から物性を予測し、数万件の材料から有望なポリマーをスクリーニングしました。
AIモデリングに要した期間は2週間、構築したAIによる予測は5分。短期間で実施できたことに加え、従来の検討範囲を超える多様な候補群を検討できたこともこれまでとは異なるアプローチとなりました。
今回、同社研究開発本部デジタルソリューション部の三浦雅典氏と佐藤真帆氏に、PoLyInfoを利用した背景、具体的な活用方法と成果、今後の材料開発についてお話を伺いました。
数字で見るPoLyInfoの活用
研究開発の変革を担うデジタルソリューション部
――まず、お二人の業務について教えてください。
三浦氏
デジタルソリューション部は、デジタル技術を活用した研究開発の変革を主導する部署です。私はAI/シミュレーションチームとデータサイエンス推進チームのリーダーとして、分子シミュレーション、データサイエンス、AI技術を用い、研究開発を加速・効率化・高度化する取り組みを進めています。
佐藤氏
私は入社2年目のキャリア社員で、AI/シミュレーションチームに所属しています。AIや量子化学計算を活用した有望な候補材料の提案や、現象解明による開発加速に取り組んでいます。
実験研究者と協力し、提案した材料がよい結果につながったときや、これまで想定されていなかったメカニズムを解明できたときに、大きなやりがいを感じます。
新しい材料の探索には、社内データだけでは情報が足りない
――PoLyInfoを利用した背景を教えてください。
三浦氏
ポリマー材料は、モノマーの組み合わせや化学修飾、骨格構造など、構造を特徴付けるパラメーターが非常に多くあります。そのため、目的の性能を実現する分子設計は容易ではなく、従来は経験のある開発者がトライ・アンド・エラーで開発を進めていました。難易度の高いポリマーでは、半年から1年以上かかる場合もあります。
社内には多くの開発データが蓄積されていますが、精度高く予測できるのは、基本的にはこれまで検討した材料の範囲内です。新しい材料探索の幅を広げるためには、外部データを追加する必要があると考えました。
新しい材料の探索には、多様な種類や構造のポリマーを収録したデータベースが必要です。PoLyInfoには多様なポリマー情報が収録されており、多くの研究者に利用されていることから導入を決定しました。
PoLyInfoは、すべての開発に使用しているわけではありません。ポリマーの構造探索など、マテリアルズ・インフォマティクスとの親和性が高い開発プロジェクトに集中的に活用しています。
佐藤氏
PoLyInfoには、物性値とともにモノマーの構造がSMILESで収録されています。共重合体やフィラー、測定装置、単位などの情報もあり、AIに使用するデータセットを作る際に役立っています。ポリマーでは、どのような履歴を経て物性が測定されたかも重要です。加工条件や製造条件が収録されている点も、PoLyInfoを利用する上で役立っています。
PoLyInfoと社内データから独自のAIモデルを構築
――光硬化性樹脂の開発では、どのようにPoLyInfoを活用したのでしょうか。
佐藤氏
従来は、実験者がモノマーを合成して特性を評価し、トライ・アンド・エラーを繰り返していました。本開発を進めるにあたっては、PoLyInfoに含まれる物性データと社内データを合わせ、モノマーの構造式から物性を予測する独自のAIモデルを構築しました。PoLyInfoだけで作ったモデルを社内データで調整したのではなく、二つのデータを合わせたデータセットから直接モデルを作っています。
このAIを用いて、数万件の材料から有望なポリマーをスクリーニングしました。AIモデリングに2週間、予測に5分という短期間で実施できたことに加え、実験者が予想しなかった大量の候補群を検討できたことも成果です。
一括データで、適用できる開発課題を判断
――PoLyInfoを一括データとして利用することには、どのようなメリットがありますか。
佐藤氏
以前、学術文献からAIの学習データを収集した際には、文献を探し、掲載情報を確認し、化学構造をSMILESに変換しても、1週間で収集できるのは200材料程度でした。
PoLyInfoを一括データとして利用することで、情報収集や構造化データの作製作業を大幅に効率化し、素早くマテリアルズ・インフォマティクスにつなげることができます。
また、データベースに含まれる情報の全体像を把握し、PoLyInfoを用いて何ができるかを事前に検討できる点も大きいと思います。
PoLyInfoには多様な物性データが収録されているため、当社ではこれらを用いてさまざまなポリマー物性を推定するAIを構築し、ベンチマークテストを行っています。その結果を参考にすることで、どの開発プロジェクト、どの開発課題にマテリアルズ・インフォマティクスを適用できるかをより素早く判断できています。
情報収集や構造化データの作製に要していた時間を、より難易度の高い課題の解決に向けられるようになりました。対応できる開発プロジェクトが増えることに加え、自身のスキルアップにもよい効果があると感じています。
「クラレならではの材料開発設計」を目指して
――今後、どのような材料開発を進めていきたいと考えていますか。
佐藤氏
マテリアルズ・インフォマティクスをうまく活用することで、実験のみでは膨大な時間を要する規模の候補検討を可能にし、これまでの検討範囲を超えた幅広い選択肢の中から有力な候補群を提案できると感じています。今後も、社内に蓄積されたデータとPoLyInfoのようなデータの両方を学習させたAIを活用し、弊社ならではの方法でより効率的な材料開発を進めたいと考えています。
さらに、実験データやPoLyInfoのデータだけでは補えない部分については、独自のシミュレーション技術を使ってデータを増やし、AI開発につなげる取り組みも進めていきたいと思います。
インタビューにご協力いただいた方
株式会社クラレ
研究開発本部 デジタルソリューション部
主管
株式会社クラレ
研究開発本部 デジタルソリューション部
部員
インタビュー実施日: 2026年7月23日
※所属、役職、掲載内容はインタビュー実施時点の情報です。
株式会社クラレ
1926年に化学繊維レーヨンの事業化を目的として岡山県倉敷市に設立。1950年には合成繊維ビニロンを世界で初めて事業化するなど、日本における化学合成繊維産業の草創期を切り開いてきた。その後、高分子化学・合成化学の独自技術をベースに化学分野で拡大を続け、今日では樹脂、化学品、活性炭、繊維などを製造・販売するスペシャリティ化学企業として、世界32カ国・地域で事業を展開している。
本社所在地:東京都千代田区大手町2-6-4 常盤橋タワー
ウェブサイト: https://www.kuraray.com/jp-ja/
PoLyInfoとは
PoLyInfoは、国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)が開発・提供する高分子データベースです。高分子に関する学術文献を主な情報源とし、ポリマーの物性、化学構造、測定条件、原料モノマー、重合方法などを収録しています。
PoLyInfoの詳細は こちら
データセット提供について
PoLyInfoのデータは、機械学習などにも対応できるよう、有償契約にてデータセット形式での提供も行っています。
データセット提供について
データセット利用に関するお問い合わせ
