DICE

MDPF利活用事例 Vol. 10

PoLyInfoを活用したカスケード型特徴転移による高分子物性予測

小渕氏写真








 小渕 喜一
 NEC (兼) 産業技術総合研究所 主任研究員
 プロフィール

※この利活用事例は、2026年7月30日に開催した第9回 技術開発・共用部門オープンセミナー ~MDPF利活用事例の紹介 [PoLyInfo]~(題目:カスケード型特徴転移モデルによる高分子物性予測モデル 講師:小渕 喜一氏)を基に作成したものです。

ポイント

  1. PoLyInfoのニートレジン(Neat Resin)データを活用した、少量のコンパウンドデータへの転移学習
  2. 分子構造と添加剤などの情報を統合するマルチモーダル・カスケード特徴転移モデルの提案
  3. 少量データでの高精度な物性予測と、コンパウンドへの正の転移の実証

背景と目的

AIや機械学習を材料開発に活用する際、大きな課題となるのがデータの少なさです。特に新材料の探索では、十分な実験データが蓄積されていない領域を対象とするため、高精度なモデルを構築しにくい「コールドスタート問題」が生じます。

そこで、既存データから得た知識を少量データの領域へ移す「転移学習」に着目しました。本研究では、PoLyInfoに蓄積された比較的データ量の多いニートレジンの情報から学習し、その知識を、添加剤などを含む複雑でデータ数の少ないコンパウンドの物性予測へ活用することを目指しました。

本講演の概要

図1 新材料の研究では、対象領域に十分な実験データがないことが珍しくありません。訓練データが十分に蓄積するまで高精度なモデルを構築しにくい「コールドスタート問題」に対し、転移学習では、別の領域で学習した知識を利用することで少量データからでも高い精度を目指す「ウォームスタート」が可能になります。本研究では、その事前学習を支えるデータ資源としてPoLyInfoを活用しました。(図1)


図2 コンパウンドの物性には、モノマーの分子構造だけでなく、分子量や添加剤など異なる形式の情報が関係します。この「マルチモーダル性」も本研究の課題の一つです。PoLyInfoの豊富なニートレジンデータを「元ドメイン」、少量のコンパウンドデータを「目標ドメイン」とし、分子構造の特徴と添加剤情報などを組み合わせて予測する設計としました。(図2)


図3 提案した「マルチモーダル・カスケード特徴転移モデル」では、ニートレジンのモノマー分子構造をグラフニューラルネットワークで事前学習し、得られた特徴量を次段のモデルへ転移します。さらに、分子記述子や添加剤などの表形式データと組み合わせることで、PoLyInfoの蓄積情報をデータの少ないコンパウンドの予測に活かす構造としました。(図3)


図4 実証には、PoLyInfoに収録された文献由来の高分子実験データを利用し、ガラス転移温度(Tg)を予測対象としました。研究目的に合わせてデータを抽出・整理し、ニートレジン7,503件、コンパウンド453件のデータセットを構築しました。機械学習に用いるため、添加剤などの情報も整理・キュレーションし、モデルで扱える形式へ変換しました。(図4)


図5 コンパウンドへの転移では、RDKit記述子を絞り込み、転移した特徴量と組み合わせた場合、さらに添加剤情報を加えた場合のいずれでも、多くの学習データ数の条件で正の転移が確認されました。PoLyInfoのニートレジンデータから得た知識を、複雑なコンパウンドの物性予測にも活用できることを示しています。(図5)


図6 最適構成では、20点の学習データで、ベンチマークモデルが140点で得たのと同等の性能を達成しました。約7分の1の学習データで同等の性能に到達したことから、PoLyInfoで事前に獲得した知識が、少量データ領域の予測を「ウォームスタート」できることが示されました。今後は、より複雑なポリマー系や複数物性への展開が期待されます。(図6)


参考論文

K. Obuchi, Y. Yahagi, K. Toyama, S. Tanaka and K. Matsui, "Multi-modal cascade feature transfer for polymer property prediction", Machine Learning: Science and Technology, 6 , 035051 (2025)
https://doi.org/10.1088/2632-2153/ae023e

本事例で使われたDICEサービス

PoLyInfoロゴ   https://polymer.nims.go.jp/

セミナーアーカイブ動画


第9回 技術開発・共用部門オープンセミナー動画
(講師:小渕 喜一氏)

本件に関する問合わせ先

国立研究開発法人物質・材料研究機構
技術開発・共用部門 運営室
Email: mdpf-pr=ml.nims.go.jp ([ = ] を [ @ ] にしてください)

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