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MDPF利活用事例 Vol.2

高分子材料データ PoLyInfo を活用したマテリアル・リポジショニング

中村氏写真





 中村 泰之
 国立研究開発法人物質・材料研究機構
 高分子・バイオ材料研究センター データ駆動高分子設計グループ 主任研究員
 プロフィール

※この利活用事例は、2024年8月22日に開催した第2回 技術開発・共用部門オープンセミナー ~MDPF利活用事例の紹介 [PoLyInfo]~(題目:データベースでの例外的探索を利用した高分子材料開発:耐熱性かつ透明な高分子材料の探索実践、講師:中村泰之氏)を基に作成したものです。

ポイント

  1. PoLyInfoを活用した耐熱性と透明性を両立した高分子材料の探索
  2. 構造が既知だが物性が未知のポリマーに絞って探索する「例外的探索法」
  3. 科学的知識、計算化学、既知の実験情報も利用した、ラボスケールでの迅速な材料開発

背景と目的

近年、データ科学は材料開発において目覚ましい発展を遂げています。しかし、データ科学を用いた研究と実際に材料を創出する研究との間には依然として大きな隔たりが存在します。したがって、このギャップを埋めるデータ科学の利用法自体の研究も必要です。本研究では高分子材料データベースPoLyInfoを活用し、データ科学と実験科学の協働による効率的な材料開発手法を確立することを目指しました。

本研究の概要

図1 ポリマー材料には、ある物性については知られているが、別の物性は知られていないものが多くあります。PoLyInfoにおいてそれらは、物性値が欠けたポリマー構造情報項目として含まれています。本研究ではデータベースのこの領域に着目する探索手法を提案し用います。 未知構造のポリマーをも含む広大な化学空間での探索とは異なり、探索対象ポリマーの合成可能性が高く実験実証が容易であり、物性が未知であったポリマーに新しい用途を与える材料リポジショニングが可能である利点があります。(図1)


図2 手法の実践として耐熱性透明ポリマーの探索を行いました。両立が難しいこれらの性質を有するポリマー探索のために、主な耐熱ポリマーの構造である芳香族構造を持たないポリマーに対象を絞りました。
物性値がデータベースにない、一般に主要な構造を持たない条件下での探索なので「例外的探索法」と名付けました。(図2)


図3 ここに化学的知識の活用による探索の加速を加えることで、ラボスケールでも実施可能なデータ駆動型研究モデルを実践しました。(図3)


図4① PoLyInfoに含まれるポリマー分子構造と耐熱性の指標となるガラス転移温度(Tg)と熱分解温度(Tdeg)について分析を行い、耐熱性に関する目標値を設定しました。(図4)


図5② ガラス転移温度、熱分解温度について、物性値が含まれておらず芳香族構造を持たないポリマーからなるPoLyInfo中のデータ空間を定義しました。(図5)


図6③ 化学的メカニズムおよびPoLyInfoのデータにもとづいて、芳香族構造以外で高いガラス転移温度を与える分子構造要素を候補の絞り込みに用いました。今回は1炭素繰り返し構造を持つポリマー(C1ポリマー)を条件としました。(図6)


図7④ 絞り込まれた候補について分子動力学シミュレーションを行いました。実測値データおよび類似ポリマーのデータを用いて、ガラス転移温度が未知であるC1ポリマーについて計算値に対する誤差範囲も算出しました。誤差込みで目標値を超える物性値を持つ候補を合成実験候補としました。(図7)


図8⑤ 選出されたポリマーの派生体(類縁体)ポリマーを合成候補に加え、合成実験の負荷をかけずに新規データ数を増やす実験計画としました。
合成候補のモノマー単位構造を化学者が適切に読み代えることで、天然化合物を原料とし容易に目的ポリマーを合成することができました。(図8)


図9⑥ 熱物性測定により合成したポリマーのガラス転移温度は十分高く、熱分解温度も耐熱材料として優れた値であることを確認しました。 (図9)


図10合成したポリマーはUV領域に至るまで無色透明であることを達成しました。さらに成膜性といったプロセス性まで考えると、派生体として実験に加えたポリマーが今回の探索目的に対する最適解として見いだされました。(図10)


今後の展開

本研究で提案した手法(例外的探索法)は、データベースの分子構造既存・物性未知の領域に着目した効率的かつラボスケールでも実践可能なデータ駆動型研究・開発アプローチです。このアプローチはPoLyInfoに限らず様々な材料データベースに応用可能であり、広く活用されていくことで新規材料の開発が加速し、持続可能な社会の実現に貢献することが期待できます。

参考論文

Nakamura, Y.; Gros, A.; Zhang, W.; Sodeyama, K.; Naito, M.
"Exception Search in Databases for Polymers with Practically Contradictory Properties of Heat Resistance and Transparency."
Polym. Chem. 2023, 14, 3881-3887.
https://mdr.nims.go.jp/concern/publications/pk02ch977?locale=en

本事例で使われたDICEサービス

polyinfoロゴ   https://polymer.nims.go.jp/

「今回の探索方法は用いるデータベースが既存の高分子構造と物性情報を網羅しているほど効果的になります。この点において、PoLyInfoが世界最大級のデータベースであることが非常に活きます。活用の切り口を変えることによって、より様々な材料開発アイデアや高分子デザインを引き出すことが可能だと考えています。」(中村氏)

セミナーアーカイブ動画


第2回 技術開発・共用部門オープンセミナー動画
(講師:中村 泰之氏)

本件に関する問合わせ先

国立研究開発法人物質・材料研究機構
技術開発・共用部門 材料データプラットフォーム(MDPF)運営室
Email: mdpf-pr=ml.nims.go.jp ([ = ] を [ @ ] にしてください)

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